ウエイトリフティングでの噛み締め・食いしばりによる歯への影響とかの話

どこかで噛み合わせが合うとパフォーマンスが上がるという話を見たので、こちらでは噛み締め・食いしばりによる歯への影響を考察してみようかと思う。

いろんな大会のいろんな選手を見ていると、口を開けている人もいればマウスピース(マウスガード)をしている人もいる。
そんな様子を見ていると、噛み合わせが本当にウエイトリフティング(以下WL)に大きく貢献しているのかは解らないが、最終的には個人の好みの問題なのかも知れないというところではある。

そもそも噛み締めや食いしばりについては、その人の口の中の状態によっても変わるので、食いしばった方が良いのかと言われるとなかなか断言は難しいのではなかろうか。

世間では力を出すときは歯を食いしばった方が力を強く出せると言われている。
「力を出す」という絵的な表現などでは歯を食いしばる形で表現していることも多いところからも、経験則的には「力を出すときは歯を食いしばること」が力の出力に何らかの効果があると思われる。

歯の食いしばりは自律神経と関係している。
ストレスを感じると知らぬ間に噛み締めているなんてことが起こる。
ストレスは交感神経の働きを強めると言われているので、興奮状態や覚醒状態が強くなり、それらは筋出力になんらかの影響を与える、つまりより強い力を出せるなんてことも起こりうる。

その原理を利用して歯の食いしばりを利用することは多々ある。
ただ、興奮しすぎて全身が力んでしまい上手く動けなくなる人などは口を開けて力まないようにするなどの手段を取っているのではないだろうか。
口を開けている人も衝撃がある時も口を開けているかと言うと必ずしもそうではないので、上手く使い分けをしているのかも知れない。

では「噛み締め・食いしばりによるパフォーマンスの影響」だが、冒頭でも言った通り「その人の口の中の状態による」と言える。
口の中の状態はどんなケースがあるのかを考えてみると

・上下左右の奥歯がきちんと揃っているか
・噛み合わせに問題はないか

この辺りだろうか。

「パターン1」まず、奥歯と呼ばれる歯(歯科的には6~7番と呼ばれる歯が一般的だと思うが、8番(親知らず)もきちんとあるのならそこも)で、噛み合わさる部分が一切ないなら食いしばれないので、このような人は下手に噛み締めようとすると、 前歯等力を入れて噛む歯ではないところがぶつかって噛み締めることによる悪影響が出るので噛み締めるべきではないと思われる。
このような場合は噛み締めや食いしばりによるパフォーマンスアップは望めないと思った方が良いだろう。

「パターン2」次、奥歯上下左右上下の組み合わせがすべてが自分の歯で揃っていて、噛み合わせにも問題が無いようならば噛み締め・食いしばりによるパフォーマンスアップは望めると思われる。
これは6~8番まであれば理想的なのだろうが、現代においては6~7番の上下左右がしっかり自分の歯で残っていている状態で且つ、噛み合わせも適切である場合である。
ただ後で述べるが、他の影響ももちろんあることは忘れてはならない。あくまでもパフォーマンスにおいてはの話である。

「パターン3」次、左右上下の組み合わせの奥歯がアンバランスにある場合である。
例えば右が6番の上下のみ、左が6・7番の上下、これらのみが噛み合っていてこの場合右の7番上があり下が抜けてしまっているなどでない場合とする。
そのような場合はすべて揃っている状態よりはその効果は落ちるものの、噛み合わせさえ問題なければパフォーマンスアップは望めるものと思われる。
ただ左右噛み締めた時の力の負担がアンバランスなのである。そのアンバランスは他でしっかり影響が出るのではないかと思われる。

「パターン4」次、例えば歯が無くてブリッジをかけている場合はアンバランスよりはパフォーマンスアップにおいては効果を得られるが、すべて自分の歯よりは効果は落ちると思われる。
ただこれも、片方が自分の歯でもう片方がブリッジの場合はアンバランスと同じような他の影響を受けることになる。

「パターン5」最後、片方だけ奥歯で噛み合っている部分があり、もう片方はない場合であるが、奥歯が完全にないよりはパフォーマンスアップは望めるが、他の3パターンよりもその効果は落ちると思われる。
もちろん他の影響はしっかりと受けてしまう。

パフォーマンスアップで共通の条件としては、噛み合わせが適切であるという事であろうか。
いくら歯が揃っていても噛み合わせが合っていなければ歯がアンバランスで噛み合わせが適切な状態よりも効果は落ちるかもしれない。

5つほどのパターンに分けてみたが、噛み合わさる部分があれば食いしばりによる興奮状態自体は作れるので、そのことによるパフォーマンスアップは望めるのではないかと思われれる。

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さてここからは少し話を変えて、噛み合わせと噛み締めの歯自体への影響を考える。

「パターン1」の場合。
この場合は奥歯以外のところで噛み締めるが、本来奥歯以外は噛み締めるための役割の歯ではないので、それらの部位で噛み締めて強い興奮状態になれるかどうかはわからないところである。
本来噛み締めるべき歯ではないところに負荷が掛かると、歯や歯を支えている骨に悪影響を与える可能性は十分高いので悪影響があると思われる。

「パターン2」の場合。
両方同じ条件で歯が揃っているのであれば、噛み締めた時の力は綺麗に分散され、力のバランス的にどこかに偏って負担を掛けることはない理想の形。
ただ歯に強い力をかけられる分、歯茎の部分のエナメル質がその圧力に耐えられず剥がれてきてしまい、知覚過敏や虫歯になりやすいなどの影響の他、歯を支えている骨自体にも強い負荷をかけてしまいその悪影響がある可能性がある。
知覚過敏は噛み締めの癖がある人はWL関係なく悩まされる口内トラブルの一つである。(つまりWLでかかる負荷まで強くなくてもそのリスクはあるという事)

「パターン3」の場合。
この場合は歯が少ない方の噛み締められる組み合わせの歯に強い負担がかかりやすく、パターン2と同じようなリスクを背負う。

「パターン4」の場合。
一見力が分散されそうに思うが、ダミーの歯がある部分の土台はなく歯茎から浮いている状態である(だからブリッジ(橋)と言う)
この場合、ブリッジの支柱となっている歯に負担がかかるのでパターン2と同じリスクを背負う事にはなるが、ブリッジのパターンにもよるが、3本の所を2本とダミーの歯の場合、その支柱の2本の歯に負荷が掛かる。
例えば奥歯6番が無くで5番と呼ばれる小臼歯と7番の奥歯でブリッジをしている場合、7番だけではなく5番の歯にも負担がかかるという事である。
7番のみよりは良いが、5番はそもそもそれほど強い力がかかる歯ではないので、6番7番の歯が揃っているのとは条件が違うということは認識しておいた方が良いだろう。
また、パターン2と同じような口内トラブルが起こるリスクはあると考えた方が良い。

「パターン5」の場合。
パターン3と同様であるが、それよりもより強い負荷が掛かると思った方が良いかも知れない。

さて、ここまでは取りあえず噛み合わせ自体は問題ないケースで話したが、いくら歯がすべて揃っていたとしても噛み合わせに問題がある場合はパターン1のような奥歯以外での噛み締めで強い力をかけてしまい他の歯への影響があるかも知れない。

閑話休題。

強い噛み締めは歯自体に悪影響も与えることはお分かりいただけたであろうか。
パフォーマンスは上がるが、その分リスクも伴うという事である。
WLはこういう点からも体には良くないということが分かると思う。

ただ対策がない訳ではなく、冒頭で話したが「マウスピース(マウスガード)」がそれら歯へのトラブルを防ぐ一つのアイテムである。
このアイテム一つで歯へのトラブルはかなり減らせる。
なので、WLで噛み締めが必要なような内容を行う場合には是非マウスガードを用意することをお勧めしたい。
ちなみにマウスピースやマウスガードは市販でも売っているが、噛み合わせのことなどを考えると出来れば歯科医院で自分の歯型から作るのが望ましい。
ついでに歯並びやせめて噛み合わせを直してもらい、それからマウスガードを作り、そして競技をすることが一番のパフォーマンスアップなのではないかと思われる。
噛み合わせは日常生活でも重要なので、是非専門家に作ってもらってほしいところである。

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最後に、噛み締めの負荷と子供への歯の影響を考察してみる。

子供の時の歯は「乳歯」と呼ばれる、柔らかい、大人とは違う歯が生えている。
それが成長していくにつれ「永久歯」に生え変わる。
大体小学生の高学年頃には永久歯が生えそろってくるのではないだろうか。

その歯の生え変わりの時の歯の過度な噛み締めは、子供にどのような影響を与えるのであろうか。
おそらく専門的な論文がどこかにあるのだろうが、それらを見なくても、あまり良い影響は与えないという推測は出来る。

運動や体育の学問では、成長期の子供にウエイトトレーニングを勧めない。
子供の成長は早くて変化も大きい。
そのタイミングにウエイトトレーニングをしないのには、やはりそれなりの理由があるからだろう。
体に大きな負荷を与えるという事は、それを行うに適したタイミングというのはあるのだろう。

WLもいろんな面で考えれば、小学生の内に大きな負荷を与えるものは避けた方が良いのかも知れない。
中学生からでも、成長に合わせた内容で行うことが大事なのかも知れない。
以上、終わり。

2019.3.3 新規

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