ウエイトリフティングでの脚力は筋力・筋量が多ければ有利なのか

この問題については結構面白い。

筋量が多ければ良いというのは最終的にはそうなるのであるがそれは「条件付き」であるという事ではないだろうか。
理論的な部分と現実的な体験を交えて話して行こうと思う。

筋肉はどのようにして筋力を出力するのか。
詳しくは機能解剖学とか生理学とかを少し勉強すればわかるので省略するが、大雑把に筋肉が収縮するその力を大雑把な「筋力」と言うらしい。
しかし筋力というものはさらに細かく分かれていて「筋長(筋肉の長さ)を同じ長さに維持し続ける力」「一定の速度で収縮する力」「加速して収縮する力」「短時間で収縮する力」辺りであろうか。
ちなみに場合によっては主動筋の他に拮抗筋の筋力も働いてしまう場合もあるので正確な筋出力を見るのは難しいのではないかと思われるがその話は置いておく。

また筋肉というのはややこしいもので、すべての筋肉繊維が機能している訳ではなく、例えば1kg筋出力筋線維、2kg筋出力筋線維、4kg筋出力筋線維、8kg筋出力筋線維の合計4本しか制御出来ない筋線維が含まれて形成されている筋肉があるとすると、 3kgの筋出力をしたい場合すべての筋繊維を使うのではなく1kgと2kgの筋線維のみを動かすという制御をする。
10kgの筋出力なら2kgと8kgの筋線維だけ使い、そしてこの筋肉の最大筋出力は15kgまでという事になるのだけれども、これらはそもそも制御できる筋線維が4本しかないという条件で、実は制御出来ない筋線維もそれなりにあることもある。
つまり筋肉の中に1、2、4、8kgの筋出力をするために使える筋線維の他に実質0kgという制御できずに使えない筋線維も存在するという事である。

それでは筋量が多いという状態を考える。
筋量が多いというのは考え方として筋線維1本1本が太くて、1、2、4、8kgのものもそれ以外の筋線維も直径が太くする前が1cmとすれば筋量が増えるというのはそれらが1.5㎝になるとかそういう話である。
筋肉の断面積が増える、筋肉を構成している筋線維が太くなると断面積は当然増えるのでそういう事である。
しかし筋量だけ増えてるというのは太くなるだけで1→1.5㎝に太さが増えても筋出力は1、2、4、8kgのままであることもある。
またそもそも制御出来ない筋線維は太くなろうが使えないので実質0kgのままである。(制御出来ない筋線維が太くなるのかどうかは置いておく)
ただ筋量が増えれば理論的な計算で行けば筋力は上がるとされているが、筋力の単純な計算式を見るとそれは良く分かる。

筋力F = 筋肉の断面積×脳の覚醒度

教科書によって脳の覚醒度が速度だったりするがそれは物理的な話でそれも正しい。
但し筋力というのは脳から指令が行かないと機能しないので物理的にはそれだけの力があっても脳からの指令が正しくなければ機能は果たせないという事でこの式を使った。

ちなみに物理的な筋力は

筋力F´= 筋肉の断面積×筋肉の収縮速度(等速の場合はそのまま、加速の場合は加速度)

とも書ける。
教科書とまた違う気がするが筋肉の機能から考えると筋出力における筋力とはこのように示される。
ちなみにこれら式は実は

(筋肉の断面積)×脳の覚醒度 = (筋肉の断面積)×筋肉の収縮速度(等速の場合はそのまま、加速の場合は加速度)
 ↓
 両辺(筋肉の断面積)で割る
 ↓
脳の覚醒度 = 筋肉の収縮速度

と表現することも出来、それはその通りである。
つまり筋収縮、実際の筋力出力は脳が行っていることを示している。
もっというと、脳から指令で筋肉に電気が送られることにより筋肉がその通りに動くという事でもあるのだが難しい話なのでこの辺りで。

実はこの式は仕組みを考えると概念として正しいとは言えない部分もある。
計算上では筋断面積が増えれば自動的に筋力が増えると思われるが、掛け合わせる内容により筋断面積が増えても筋力FまたはF´が増えない場合がある。
掛け合わせる数字は単純ではなく、覚醒度や速度と言った脳からの制御に関わるものであるため単純化出来ない部分もあると思われる。

つまり例えば1kgの筋力を出力出来た筋線維1本の太さが0.5㎝増えても、その筋線維自体が持つ脳からのシグナルへの反応の力が1㎏のままであれば、筋線維の断面積に関係なくFは1kgのままであるという事なのである。
実際にこんなことがあり得るのかどうかは解らない部分もあるが、例えば0.5㎝直径が増えて本来ならば+1kg筋力が上がる計算の所0.5kgしか筋力が上がらないという話はありそうである(それも分からないが)。
※この辺りの詳細は見かけないので不明なままではあるがこの後記述の体験などを考えるとどうなのかとは思う(個人的感想)

2020.01.20追記【余談】
上記消去部分を改めて読み直してみたが、そもそも筋肉の断面積と言うのも考えてみるとそれ自体すら曖昧なのかも知れないと思ったりもした。
と言うのもこの式の場合の筋肉の断面積は機能している筋線維の合計の断面積なのか、それとも機能していない筋線維の断面積も含めたものを言うのかが不明ではある。
おそらくだが、この式の前提として「すべての筋線維が筋出力の際に機能するものをする」というものがあっての話なのではないかと思われる、そう考えればこの計算は成り立つ。
ただもしも機能していない筋線維の断面積も含めるのであれば式としては不完全のように思われる。【余談終わり】

例えばAさんとBさん、Bさんの方がマッチョに見えるのにAさんの方が筋力が強い、という例は遭遇したことはあると思う。
その違いはなんなのか、本来計算上では筋断面積の多いBさんの方が力が強いはずが実際は違うというのは、断面積ではない条件でAさんの方が筋力が強くなる要因があると考える方が妥当ではないか。

前置きが長くなったが、ウエイトリフティングにおける筋力というのは筋断面積だけではない、というのが今回の話でもある。
それが「瞬発力」であり「筋収縮の速度」でありという事であり、先に結論を言うと、断面積よりはこちらの方がウエイトリフティングでは大事であると言いたいのである。

私が実際に見た例をいくつか示す。(数字は違うものにするが)

1、クリーンにおける1RM重量が190kgの選手が2人いる。
バックスクワットでの1RM重量がCさんは250kg、Dさんは300kg。
Dさんはバックスクワットにおいて250kgの時点でクリーン190kgは出来ず300kgになった時点で190kg取れるようになった。
Cさんは250kgの時点で190kgクリーンが問題なく行えた。

2、フロントスクワットで3RMの重量ならばその重量でクリーン1RM必ず取れると理論を展開する人がいる。
私は100kgのフロントスクワットを3RM出来たのだが、クリーンでは85kgまでしか取れなかった。

3、脚力の筋出力を抑制する手段を取ってのクリーンを試してみたことがある。
但しその手段はクリーンで使われる足の筋肉の電位伝達速度は上がるという副作用付きである。
結果、5RMの重量で5回という形で試したのだが、筋力を制御するのとパフォーマンスは何ら変わりはなかったどころかその手段の方が軽く出来た(但しこれは個人の感想とする)。

おそらく似たような例(3は稀だと思われるが)はたくさんあるし、例えば2のような内容で思うようにいかなく悩んでいる人も多いと思う。
筋量・筋力はガッツリ強化したのにも関わらず思ったような成果が出ない。
技術力の問題だろうか、それも確かにあるがそれを解決しても上手くいかない場合もある。
その場合「筋量」ではなく、筋量に掛け合わせる要素に目を向けてみると解決するかも知れない。

ここからはあくまでも考察・推測のレベルは抜けないが、脳から筋肉への指令(促通と言う)にいろんなパターンがあるのならば、 もしも筋出力が2kgになったとしても、それが促通の具合で等速出力で2kgで瞬間出力が1kgのままだったらクリーンの挙上重量は変わらないという事である。
または促通は一つしかパターンがない場合は筋肉の反応の仕方で変わるのかも知れない。
これは例えばスクワットが上記例の300kg挙げらる人であっても瞬間収縮の制御が鈍ければ1の例のように効率が悪い状態、という事もあるのである。

3の実験は面白いものであった。
実は片足の筋力出力を抑制することにより、上手く使えない方の足の筋力や筋量を増やそうと目論んだ検証だったのだが失敗したのがこの例なのである。
この事で「クリーンは筋肉の筋量以外の要素の方が実は大事なのではないか」と言う疑問が生じたのである。

ウエイトリフティングでは持っているものを効率よく最大限に生かしたい。ウエイトリフティングに限ったことではないが。
そう考えると300kgよりも250kgのスクワットでの1RMで190kg上がる方が効率が良いし、むしろ300kg上がるなら220kgは挙がっても良いのではないかと考えるのは当然であろう。
大事なのは脚力というものを最大限に生かすための方法なのではないだろうか。
脚力=筋肉なのだろうか、そういう疑問も起こって当然だと思うし、もちろん筋肉は欠かせないが筋量や筋力だけではない要素にも目を向けるべきだろう。

大事なのは「筋肉の制御」なのではないかと思うし、そのための訓練をしっかり積んだ方が良いと思われるので今回の文章を書いてみた次第である。

以上、終わり。

2020.01.19 新規
2020.01.20 編集

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