ウエイトリフティングの道具の変化と競技性



剣道をやっている人から聞いた話なのですが、それこそ昭和生まれの子供たちが剣道をやっていた頃に比べると、装備品の質がかなりの変化をしているのだそうです。

例えば防具である面や小手など、昔の素材と比べるとかなり軽量化されており、そのおかげで体への負担が減り、速く動けるようになったそうです。

また、竹刀もかなり軽量化されていて、且つ持ち手の作りも昔に比べて振り回しやすくなっており、より素早い攻撃ができるそうです。

胴着に至っては綿ではなく今の時代のジャージのような通気性があり軽い素材に変わり、洗濯しやすくなって、きちんと洗っていれば臭くないのだそうです。

それだけ話を聞いても時代の流れと技術の発展はすごいものだと思いますが、その発展により競技性も結構変わってきているそうで、そこが昔から剣道をやっている人から見ると「剣道とは」と思ってしまう懸念材料にもなりかねない感じなのだそうです。

昔は重たい装備で重たい武器で攻撃(競技的に言えば有効打?)をしなければならないので、そういう体の使い方や動きにどうしてもなってしまうところが、それが軽くなってしまうともっと細かい動きができてしまうため、昔では考えられないような交わし方いなし方、攻撃の仕方になってしまい、体の使い方ももちろん変わり、言うなれば手先で竹刀を素早く動かせるため、どうしてもダイナミックさに欠けてしまうプレイスタイルになってしまうようです。

私も剣道は話に聞くだけでそこまで詳しくはないのですが、この話で思ったのは、技術の発展は一見競技をやりやすくしていると思われるが、実はその本質を変えてしまうのではないかと思いました。

剣道の本質は私にはわかりませんが。

それは実はウエイトリフティングでも同じことが言えるのではないかとも思ったので、今回エッセイの方で自分の思っていることを書いてみようと思いました。

昔はバーベルのスリーブと言う部分が回転しなかったし、落とせば歪むし、シューズの素材も違うし、プラットフォームの材質も違う。

プレートはゴムやウレタンなどのクッション性のある素材ではないので、だからこそそれがルールの方に反映されていて「降ろすこと、落としてはならない」となっているのもあると思います。

バーベルも今と違って劣化しやすかったのでしょうから、自分のタイミングでのバーベルの状態なんて常に一定ではないですからね。

剣道ほど道具が多い訳ではないので、剣道ほど競技性に影響があるとは言えないかも知れませんが、それでもバーベルの素材の変化はかなり変わっていると思います。

過去に見ていたルールブックに書いてある内容を思い出してみると、ウエイトリフティングでは確かプラットフォームの素材について言及されていたような気がします。

出来るだけ昔と条件が変わらないようにしているのかも知れません。

バーベルの素材の技術向上に目を向けてみると、このおかげで現代ではバーベルを落としても大きな問題にはならなくなってきました。

これは非常に良いことだと思いますが、そのおかげで競技としては「降ろすこと」を考えなくても良くなりました。

肩のラインまではバーベルから手を離してはならないとルールに記載されていましたが、実質落ちていくバーベルをそこまで握っていれば良いだけなので、そこに力を使うことはほぼない訳です。

そうなると降ろすためのスタミナを残しておかなくて良いので、挙上重量が上がっていく訳です。

ちゃんと降ろさなければならない時代の場合は、降ろすためのスタミナや力を考えて挙上重量を決めることになりますので、落とせたらもっと挙げられるのにそれを抑えることも必要になるのでしょうからね。

これはやはりバーベルの素材が落とせるようになった技術発達のおかげと言えるでしょう。

しかしここで、一つの疑問が生じます。

バーベルと降ろさなければならない時代の記録と、バーベルを落とせる時代の記録を同列に並べて良いのか?

厳密に見ていけば、バーベルを降ろすところも力やスタミナを使う競技と、バーベルを落としても問題ない競技は同じ競技と言えるのだろうか・・・と。

こう考えると、ルールブック上での「落としても良い」や「挙上後は落とす」と書けない事情が見えてきませんか。

多分ここを変えると、昔のウエイトリフティングと今のウエイトリフティングは同じウエイトリフティングとは言えないからなのではないでしょうか。

ウエイトリフティングと言えば、クリーン&プレスという種目がなくなりました。

この辺りも本来はウエイトリフティングという競技がそれまでのものとは違うものになるでしょう。

昔は3種目やらなければならないため、体力配分を考えた上での重量設定だと思います。

3種目の体力量が2種目で済むのであれば、スナッチやクリーン&ジャークの取り扱い重量はもう少しだけ増やせるのかも知れません。

この時の時代背景や変更に際してどんな意見があったのかはわかりませんし、この時代のスナッチやクリーン&ジャークが、今のウエイトリフティングのスナッチやクリーン&ジャークと同列になっているとも思いませんが。

ウエイトリフティングの本質は割とシンプルです。

人よりも高重量を上げたものが勝ち

だからこそ多少の競技性の変化にウエイトリフティングと言う競技が違うものになってしまうということは少ないのではないかと思います。

しかし疑問はあります。

今のウエイトリフティングのスナッチとクリーン&ジャークの2種での重量を競うという形に落ち着いてから結構な年月が経過したでしょう。

しかしバーベルや、もしかしたら身に付けるアクセサリの技術向上はかなり変化しています。

今の形式になってからの、例えばバーベルが気安く落とせるようになった時代の記録と、気安く落とせない時代の記録、その境目はありません。

例えば一つの疑いの目を持てば、その年やその先数年、妙に世界記録や日本記録が更新される頻度が高い時、それは選手の成長ではなくて実はバーベルの成長なのでは?なんて・・・

人間という生物として、急激にそこまで体が進化するとは思いません。

もちろんトレーニングにおける環境などの条件が良くなったからと言うのはあるかも知れませんが、それだって人間の進化ではなく環境という技術の変化と言うこともできてしまう。

どこまでが人間の変化で、どこまでが技術の変化なのでしょうか。

私たちが見ているウエイトリフティングと言う競技は、何を見せられているのでしょうか。

人間の成長なのでしょうか、それとも技術の成長なのでしょうか。

話は少し変わりますが、ウエイトリフティングよりももっとシンプルな「走る競技」において、これもまた道具や環境などの技術の進化が目覚ましく発展し、記録も幾度となく更新され続けています。

私が記憶している過去の中で比較的新しいものとしては、マラソン選手の「ピンク色のシューズ」ですね。

そのシューズをはいている人ほぼすべての記録が塗り替えられたそうです。

これはその人が成長したのでしょうか、それともシューズのおかげなのでしょうか。

もちろんそのシューズをはいた時に変化する力に対する対応力も身に付けてないと記録は伸びないかも知れませんが、すでにトップアスリートだったらその辺りは問題ないでしょう。

どこかで聞いた話によると、実は人間自体の能力はそれこそ初期オリンピックの時と大して変わらないのだそうです。

今、AIがどんどん社会に進出してきて、例えば将棋ではすでにAIにはかなわないと言われています。

それでも人間が将棋を続ける理由はなんでしょうか。

人間同士の戦いが面白いと感じるのは何故でしょうか。

スポーツも多分、これと似たような状態なんじゃないかなと思います。

道具や環境が良くなって、道具のおかげなのに、技術のおかげなのに、でも人間のプレイを見て面白いと思うのは何故でしょうか。

ウエイトリフティングではあまり感じませんが、対戦競技の場合は人間同士で行うため、どうなるかわからないというワクワク感は技術や環境の発達だけでは起こせないムーブなのではないかと思います。

ウエイトリフティングだって、人間がより良い技術で高重量を挙げて行く、その記録を塗り替えていく、その楽しみは技術や環境の発達では起こせないムーブなのではないかと思います。

だからこそ、技術や環境は平等に分け与えられなければならないと思うし、そのムーブは起こせないのではないかとも思います。

ちょっと話を逸らして、ドーピングはすべての人に平等に分け与えられる技術ではないからこそ、それに対して非難が起こるのではないかとの説があるのではないかとも思います。

何故平等に分け与えられないのか、その理由がアンチドーピングとそうじゃない人たちとの間に論争を起こしている、その一つの理由なのかも知れないですね。

技術の発展は競技に明らかな影響の与えるのは確かなようです。

だからこそ技術が影響を与えようともぶれない競技性やその本質を決めておくのは、競技が壊れないための一つの手段であると思うし、それがある限りはスポーツはもう少し楽しめるのではないかと思います。

しかし技術がそれを壊すことが出来るというのも実際であると言ったところなのでしょうか。

ウエイトリフティングもロボットと対戦する羽目になったら最終的には絶対に勝てないですからね。

ロボットウエイトリフティング選手権、ちょっと楽しそうだな・・・

(落ちナシ)
2025.7.15 著

→ウエイトリフティング:エッセイページへ


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