バーベルバックスクワットとクイックリフト(クリーン)の膝への負荷の比較やその話
筋力トレーニングの印象としては、バーベルを担いだバックスクワット(以下BSQ)よりもクイックリフト(今回はクリーンを指すことにする。以下QL)の方が膝への悪影響が大きいように思える。
しかしまずは理論的に大まかな計算ではあるが、その数字を見るとそうではないようにも思える。
それをこれから記す。
■膝に悪い・痛いなどの悪影響は何が原因で発生するのか
フォーム内で膝に無理のある動きをしているからというのがあるが、これはBSQだろうがQLだろうがフォームで膝に無理をかければ膝に悪影響を及ぼす。
ここにBSQとQLの明らかな差はなく、どちらもフォームをしっかり習得すれば良いだけの話である。
最低限の正しいフォームは体を必要以上に痛めつけないという大事な役割があることを覚えておくと良いだろう。
ではもう少し深く膝への悪影響の原因を見てみよう。
膝に負担がかかるという事は常にあるのだろうか、そういう訳ではない。
寝ている状態であれば膝に負担はかからない、実は正座そのものも膝に負担はかからない、逆立ちでほんの少しだけ膝に負担がかかる、立位の状態で膝に負担がかかる。
つまり膝に負担がかかるのは、膝関節が重力の鉛直の床方向の力を受けている時に負担がかかる。
逆立ちの状態で膝に負担がかかるというのは、膝関節に重力の向きの圧力を受けている、それにより下腿の重さの圧を受けているからである。
それでは何故正座の状態だと膝に負担が掛からないのかと言えば、膝関節の向きが重力の影響を受けない方向を向いているからである。
本題のBSQとQLの膝への負荷を見る時は「立位の状態」がどちらにも含まれる条件であるため、どちらも同じように膝に負担がかかると考えるのが妥当である。
これがまず、膝に負担がかかることによる悪影響を及ぼす条件の一つである。
次に「膝の角度」だが、これもその構造的に膝に負担をかけることが知られている。
膝関節0度で最も負担が少なく、角度が増えていくほどに膝への負担が大きくなると言われる。
しかしこれにも一つ状態次第というところがあり、深くしゃがんだ時に大腿部と上体が密着するような形状だと、角度に対して多少膝への負担が軽減されることがある。
もちろん床に手をついて腕で体重を支える上体を作ればやはり膝への負担が軽減される。
但し、BSQとQLはまず大腿部に上体が乗るほどしゃがまないのでこの条件は外せる、そしてどちらも腕で上体を支えるフォームはないのでこの条件も外せるであろう。
それら例外を外した「膝の角度」も膝に負担を掛けることによる悪影響を及ぼす条件の一つである。
次の条件はあまり意識されることはないが、膝の負担を考える上では非常に重要な要素であるのでしっかり取り上げて行きたい。
もう一つの条件は「膝に負担がかかっている時間」である。
どれだけの時間膝関節に力をかけ続けているのか、これは力以上に重要かも知れない。
そしてこれこそがBSQとQLどちらの方が膝への悪影響が大きいのかを決める要因であるともいえる重要な条件である要素である。
■BSQとQLの膝に力をかける時間
まずBSQであるが、膝への負担はバーベルを担いでラックアップした瞬間から始まる。
そしてその後静止して体制を整え、そしてしゃがみ立ち上がる。
そしてバーベルをラックに戻し乗せた瞬間にカウント終了となる。
但し、ラックアップ~スタート直前まで、BSQ終了~ラックに戻すまでの時間は、今のところ条件から外しておく。
BSQのパラレル(大腿が床と水平になるぐらいまでしゃがむ)を10回行った時のおおよその掛かる時間は、ざっと約40秒ぐらいである。
BSQをやったことがある方は解るかも知れないが、それぐらいしゃがむのに1秒ではしゃがめないし1秒では立てない。
また立ち上がってからすぐにしゃがまない(一旦静止する)のでそれらを考えて大体10回40秒と考えられるが人によってはもっと時間がかかるかも知れない。
そこから計算してBSQフォーム切り取り1回に付き4秒+ラックアップ・ラック戻し4秒にして計8秒、膝に負担がかかり続けるのは解るであろう。
QLの場合はBSQのようにシンプルにはいかない。
BSQと違ってラックアップ~スタート直前までの時間はほぼ省略できる。
但し、床引きからのスタートではない場合は体勢を整えるまでに数秒要する。
そしてスタートからキャッチそして膝が曲がっていれば伸ばして、そして1回ごとに床に置くなら落とすか下ろす。
QLはここで終了になる。
最後落としてしまえばその時点で膝の負担は消えるが今回は下ろすという条件にするとして且つ床引きスタートという条件にした場合、QL(膝を90度以上曲げないミドルキャッチ)を1回行う時間は
スタートからキャッチまで2秒(実際は2秒かからないが小数点になるので四捨五入)+フィニッシュまで1秒+バーベルおろし1秒の計4秒となる。
まとめると・・・
BSQ 1回 8秒
QL 1回 4秒
となる。
※それぞれの秒数カウントは、一般の方あるいはパワーリフター・ウエイトリフターの愛好家レベルの動きから平均を出しましたので、実際は違うかもしれません。
※正しいデータがありましたらお知らせいただけると幸いです。
■時間で見る膝への負担の違い
ここまでお読みいただければわかると思うが、BSQとQLの膝への負担の時間的比率は
BSQ:QL = 8:4 = 2:1
となる。時間だけ見るならQLはBSQに比べて1/2の負担だけなのでQLの方が膝への負担は少ない。
しかし負荷は時間だけではない。
今度はここに「力の大きさ」を加味していく必要がある。
■実は正確な数字を出すのは難しい膝にかかっている力
計算で完全な力を重量で表すことは不可能なので(あくまでも推測値だし出せるものもものすごく曖昧)重量(kg)というような表現はしない形で、BSQとQLの力の関係を表現したいと思う。
まず、BSQとQLではフォームの中で共通する動作がある。
・BSQのしゃがんだ体勢からの立ち上がりの伸び切る直前
・QLはスタートからセカンドプル直前
この一連の動作での体勢は共通していると考えても影響はないと考える、つまり膝に負担がかかる条件としては同じと考えて問題がないように思える。
故にここでの力の大きさはBSQ、QL共に同じと考えて問題はないだろう(誤差も問題のない範囲)。
この時点での1秒に対する膝への負荷は
BSQ:QL = 1:1
である。
※この比率を出す際の定義として、バーベルの重さが100%体に掛かっている状態(BSQなら担いでいる状態、QLなら手で持ったバーベルが床から離れた状態で且つ双方ともバーベルの重力が働いているベクトルと逆向きの方向への慣性の力が0の状態)での力の大きさを1とする。
違いはこの次の段階の動作にある。
BSQはそのまま立ち上がるのだが、立ち上がりを決めても立位の状態のままでも膝に力はかかり続ける。(その力は1秒に対して1)
QLはここからが膝への負担が大きく変わることになるがその説明をこれからする。
まず、セカンドプル時は一連のフォームの中で一番大きな力が発生する。
この力はもちろん膝への負担を大きくするのは言うまでもない。
では実際にどれぐらいの力になるのかと言えば、直前の力の1.5 2倍の力になる(これはどこかで見たデータですがちょっと怪しいので改めて計算してみたいと思います。これはとある形で計算したら1.5倍ではなく約2倍と言う数字が出た。ただこの力はバーベルを挙げる高さで変わるが1.5は小さすぎるので2に修正)。これはバーベルを上げるのに1.5 2倍の瞬間的な力が必要だという事でもある。
しかし非常に短時間で1秒にも満たないそれこそ0.1~0.2秒ぐらいではあるが、その瞬間だけはBSQよりも1.5 2倍の力がかかるのは確実である。
この時点での膝の負荷は
BSQ:QL = 1:1.5 = 1:3
BSQ:QL = 1:2
である。
BSQは取りあえず置いておき、QLだけ更に時間を進める。
QLはセカンドプル後はキャッチまで膝への負担は全くかからない。
何故ならば体全体が宙に浮くような力が働くので膝関節に圧が掛からなくなり、実質0の力が膝にかかる、つまり膝には負担がかかっていない。
膝に負担がかかっていない時間が0.3~0.5秒ある。
しかしその後キャッチがある。
キャッチで結構な力が膝にかかると思われるであろうが、バーベルが帯びているエネルギーを考慮し、そして計算してみると驚く結果が出る。
これが実はQL(ウエイトリフティング)の非常に面白いところでもあるが、セカンドプル後のバーベルは腕の力で挙上しているのではなく、
慣性というエネルギーを帯びて自らが上昇している。
もちろんバーベルには重さが存在し、そして地球には重力が存在するのでいずれはその上昇エネルギーは0になるのだが、
セカンドプル直後のへの負担が「0から0より大きくなる前」の状態で、そのバーベルの持つエネルギーが0の時にキャッチすればその瞬間は膝への負担は0、そして体に上手く乗せられた時点で立位と同じ負担になる。
しかし実際の所、よほど上手でない限りはエネルギー0でのキャッチは出来ないので、若干のバーベルの落下は避けられないことも考慮に入れるべきであろう。
キャッチ位置とバーベルの0になる位置との間におおよそ5cmの誤差があるとしよう、5cmの落下によるエネルギー発生が起こると考える。
ひとつここでのフォーム体勢の状態を定義するならば、バーベルを持っていない立位と同じ負荷がかかる状態であると定義する。(つまり床に脚がついている状態でバーベルがなくても静止していられる状態)
では5cmからのバーベル落下を物理的な法則で計算してみると
先ず加速度を求める
V2 = 2gh (g:9.8、hは高さでm)
V = 0.98 m/s
次に衝撃力を求める
F = mv2/l (m:質量kg v:移動加速m/s l:移動距離m)
F = 1(1㎏と仮定する)x0.98/0.05
F = 19.2 N(単位はニュートン)= 1.9 kfg
5cmからバーベルをキャッチした場合は持っているバーベルの重さの2倍+何も持たない状態での重さが力としてかかる。
但し、衝撃と言うのは受け止める側の弾力性などその力を吸収するものがあれば、計算で算出出来た数値がそのまま体全体に反映される訳でもないが、細かく見ていくととキリがないので最大限2倍とする、となると力も2となる。
時間的には1秒はかからず、かかっても最大0.5秒ぐらいと言ったところか(実際はもう少し短いかも知れないが、1秒はないと思われる)。
さてここで、スタートからキャッチまでの時間と力の分布を照らし合わせてみよう。
スタートからキャッチまでは2秒と定義したので、それを基に時間と力を振り分けると
・セカンドプル ⇒ 0.2秒で力は1.5 2
・セカンドプル直後~キャッチ ⇒ 0.5秒で力は0
・バーベル5cm落下でのキャッチ ⇒ 0.2秒で力は2
・スタートからキャッチまでの時間2秒 ⇒ 2-0.2-0.5-0.2=1.1秒 ⇒ 1.1秒で力は4
というようになる。
さてここでQLの時間に対する力を計算してみよう。
QLは合計4秒かかるが、その内の1秒は負担が2.5なので力の負担を見ると多少大きくなる。
それに対しBSQは8秒かかるがそのすべてに1の力がかかっている。
つまりこれを膝への負担(時間x力)の比率を見ると
SQ:QL = 8:5.5 = 16:11
SQ:QL = 8:7
である。
ちなみに1秒に対する力の大きさの平均は、BSQではずっと1にも関わらず、QLでは1.75と比較的大き目である。
しかし1rep行う時間の長さの差はその力の差を逆転させることなく、総合的にはBSQの方が僅かに大きいということではなかろうか。
そしてこれは、1つの種目を行う時間と言うのも、力とは違う影響を与えるということが言えるのではないだろうか。
■力の数字を実際に入れてみる
さて、ここではBSQもQLも同じ力の大きさ、つまり同じ重量を扱うという前提で話をしてきたのだが、実際問題としてはBSQで5RM出来る重量でQLが5RM出来るという事はまずない。
BSQに比べてQLで取り扱われる重量は少ないのである。
さてここですでにお分かりいただけたと思うが、BSQとQLの膝への負担の比率はもっと差が開いて、QLの方が少ないという事になるのである。
それ故に、実はQLの方がBSQよりも膝への負担は少ないということが言えるのではないだろうか。
例えば(同じ人・同じ体重)でBSQで100kg1RMの場合、QLでは70kg1RMしか扱えない場合
※バーベルを持っていない時の膝への負担は
BSQ→100kgx8秒 = 800
QL→ (70kgx1.75)x4秒 = 490
BSQ : QL = 800:490
QLの重量がBSQの重量の7割になるだけで、膝への総合的は負担はかなり減っている。
時間に対してかかる力の負荷はQLの方が大きいが、取り扱い重量の違いで負担が変わるということを忘れてはならないのではないだろうか。
またこれは、QLは1秒ごとの負担は大きいがその時間が小さければ全体的な負担を減らせるということも言えるのではないだろうか。
■但し書き
この計算は、文中に書いてある条件にのみ成立するものであり、これが例えばQLでのローキャッチというようなことになるとまた条件は変わってきます。
あくまでも「特定の条件においての計算である」という事をご承知おきください。
また、単なるお話ですので、これが学会でどうだこうだはありませんので、一つの意見として捉えていただければと思います。
2.22公開分は思い切り計算から間違えていましたが、こちらでおそらく問題ないと思います。
正直2.22の時は自分でも疑問は残っていたのですが、これで無事解消されたと思われます。
ただあくまでも私の計算ですので、実際にどこかに正しいデータがあればそちらをご連絡いただけたら幸いです。
また、間違いを指摘していただければ幸いです。
■BSQに関して
今回BSQの力の変化は書きませんでしたが、書くまでもなくBSQとQLの差があるからであるということはご承知おきください。
ちなみにBSQは立位での膝への負担の力Fは1とすると、しゃがんでいく時にはある程度までは0<F<1であり、立ち上がる時は1<F<1.3(上限はおよそ)となります。
マメ知識として捉えていただけると幸いです。
■実経験として
変形性膝関節症の自分がBSQとQLを3年ぐらい試行錯誤して試して行った結果、BSQの方が膝を悪くなるケースが多かったです(深さや重さ、回数などいろんなパターンを試しました)。
クイックリフトも重量を挙げていくと悪くなる場合がありますが、重量を下げれば痛くなることはありませんでした。
膝の悪い人の経験からもQLの方がBSQよりも膝への負担は少なかったです。
以上、終わり。
2019.2.23 修正中
2019.2.21 新規
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