ウエイトリフティング(以下WL)及びクイックリフト(以下QL)におけるセカンドプルでの最大瞬発筋力発生の下半身の動きについて、最近のこの業界(学問)での研究データなども交えてどのように行われているのかを記していく。
先ずは予備知識をいくつかまとめておく。
- 筋芽細胞またそれが連なって出来た筋肉はどこにも接着していなければただ縮むだけである。
- 筋芽細胞は縦列して筋線維と呼ばれるものとなり、その筋線維の束を「筋肉」と呼ぶ。
- 筋線維は一定の方向に縮むようになる、筋線維になった時点で縮む方向性が出来上がる。筋線維はその繊維が短くなるように縮む。
- 筋肉はどこかに接着することにより初めて一般に知られている「筋肉の機能」は発生する。
- 筋肉は関節を跨いで単数ないし複数の骨などに接着することによりその関節及び骨を動かすことが出来るようになる。
- その筋肉が一つの筋肉が一つの関節しか跨がない場合は「単関節筋」、一つの筋肉が二つ以上の関節を跨ぐ場合は「二関節筋(多関節筋)」と言う。
それでは本題に入って行く。
WL及びQLでのセカンドプルでの関節の力の出力は大きく分けて「股関節伸展による力の出力」「膝関節伸展による力の出力」に分類できる。
これはヒトが骨格及び筋肉そして力学的にそうならざるを得ない構造、また必要な筋力的にその2つしか選べないということに他ならない。
(足関節底屈も機能としてはあるのだが、それだけでバーベルが浮かぶほどの力を出力出来ないから選択肢から外している)
私自身も昔は間違えた認識をしていたが、二関節筋の最近のエビデンスデータを知ると「股関節と膝関節の同時刻伸展の出力」は先に挙げた2つのパターンと比較して筋力が落ちることが分かった。
故に時系列的には「股関節の伸展」「膝関節の伸展」どちらかが先に起こることによりセカンドプルは成立すると考えられる。
では何故「股関節と膝関節の同時刻伸展」での筋出力が落ちてしまうのか。
シンプルにいえばそのエビデンス内で「二関節筋」は2つの関節を同時に動かすと例えその筋長が最大出力を出せる物であっても、どちらかの関節が動いておらずもう一つの関節が動くときの筋力と比較して筋力が落ちるというようなことが言われていたからである。
これは筋肉自体の性質を考えると分かりやすいかも知れない。
予備知識にまとめたが、筋肉はどこかに接着することにより筋肉の機能が発生する。
これはもう少し細かく言うと、機能解剖学を学ぶと分かるのだが、筋肉接着には「起始」と「停止」と言う名称がそれぞれつけられる。
教科書には位置が大きく動く方を「停止」、動きが小さいものを「起始」と言うが、そもそも筋肉単体で筋肉を動かした場合、起始が動かずに停止側が起始側に縮むのかと考えると、筋芽細胞や筋線維の事を考えるとそれはない。
筋肉はどこにも接着していなければ、繊維を短くするように「縮むだけ」である。
そこへ筋肉の片方を動かない(動きにくい)場所に接着させると、接着されていないもう片方側が接着されている方向へ縮むような動きを見せる。
これが筋肉の「起始」の考え方でもある。
そこにもう片方側は関節を跨いだ動きやすい骨に接着させると、動かない側は筋肉が収縮しても動かないので物理的な法則で言えば支点となり、結果的に動きやすい骨に接着した側が筋肉の収縮の際に骨ごと動かされることにより動かない側に引き寄せられる(作用点)。
これが「停止」の考え方である。
ちなみに起始停止に関しては、教科書によっては違う場合もあるのは解釈の違いのせいでもある。(明らかなものは同じだが)
この辺りを踏まえた上で次は「筋力」について考えてみる。
筋力は2つの解釈が出来る。
一つは「筋芽細胞が縮むその収縮力」
もう一つは「起始に停止を引き付ける収縮力」
筋肉の収縮の力は前者、例えばアームカールでダンベルを動かすのは後者である。
最終的には前者に集約はされるともいえるが、概念的にいろんな定義を立てていくことも大事な事である。
ここから先の取りあえずの筋力の解釈は後者になる。
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二関節筋についてここでやっと考えられる。
二関節筋は関節を2つ跨いでいるだけで、筋肉自体の機能は他の筋肉を変わりはない。
では二関節筋の筋力を左右する要素は何かと考えた時、それは筋肉の片方がどこかに固定されていて「支点」になっているかどうかである。
物理的な法則及び筋肉の機能、そして筋力を考えるに二関節の場合は筋肉に両端どちらも支点にも作用点にもなり得る。
これはどちらか片方が「支点」でもう片方が「作用点」と言うのではなく、どちらも「支点」になり得るし、どちらも「作用点」になり得るということである。
お互いに「支点」になる場合は「アイソメトリック収縮」とも言われる状態ともいえる。
問題は両方が「作用点」になった時である。
筋力は筋肉のどちらかが「支点」の時に初めて「作用点」を引き付ける収縮力が明確に生まれるが、お互いに作用点になってしまうと支点が存在しないことになる。
筋力は起始が支点になるから力発揮が出来るのである。
支点がなくお互いに作用点になってしまう筋肉は大げさに言えば「どこにも接着していない筋肉」と同じような働きになる。
例えてみると、どこにも接着させていない筋肉の両端にピンポン玉のような固定されていない物に接着させた場合、筋肉はどういう動きをするだろう。
答えは簡単「ただ縮むだけ」である。
筋肉毎にとある筋長で一番力を出力できるとは言われているが、それは筋肉がどこか動かないまたは動きにくいところに接着しているから成立する話であり、どこにも固定されていなければ成立しないのである。
ではこれは二関節筋ではどういう時に強い筋力を発揮出来るのかと言うと、跨いでいる二つの関節を同時刻に動かしてしまうと両方とも「作用点」状態になり返って筋力が弱まる。
二関節筋でしっかり筋力を活用するには「どちらかの関節は固定させた状態でそちらに接着している側を支点にしなければならない」と言うことである。
では、最初の疑問「股関節と膝関節の同時刻伸展での筋出力」がなぜ筋力として弱まるのか。
ここまでお読みいただき理解してもらえたらわかると思うが、これはどちらも「作用点」になってしまうからである。
故にこれはセカンドプルにおける力の発生にはあまり向かない、と言うことがお分かりいただけたらと思う。
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さて、二関節筋の事を理解した上でセカンドプルの動きが「股関節伸展」「膝関節伸展」の話をしていこうと思う。
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「股関節伸展によるセカンドプル」
膝関節はとある角度で固定した状態で、股関節を伸展させることによりセカンドプルの力を発生させる。
筋肉的にいえば膝関節に関わる大腿四頭筋をとある長さでアイソメトリック収縮させて置き、大臀筋とハムストリングスを瞬間的に収縮してセカンドプルの力を発生させる。
私も長い間セカンドプルにおけるハムストリングスの役割を理解できていなかったが、実はこういうセカンドプルの場合はハムストリングスを使うということを理解した。
このセカンドプルは大臀筋も大事であると思われるが、ハムストリングスの役割があるから臀筋の収縮も生きてくるということであろうか。
このセカンドプルで大きく関わる二関節筋は「ハムストリングス」である。
ハムストリングスは「大腿二頭筋」「半腱様筋」「半膜様筋」であるが、これらの起始は坐骨結節の上方か下方かであり、停止は脛骨・腓骨かである、れっきとした二関節筋である。
ハムストリングス自体はおおざっぱに言えば膝を曲げる時に収縮するイメージがあるが、立位の状態で骨盤を後傾させるつまり股関節を伸展させる時にも使える。
この場合のハムストリングスの筋肉の使い方は少々特殊で、脛骨及び腓骨に接着している停止部分を支点としてセカンドプルポイントに来たところで股関節伸展時に坐骨結節を前方に移動させる(または後方に持って行かれないようにする)ためにハムストリングスの瞬間収縮を使う。
役割としてはハムストリングスの起始停止が逆になった状態ともいえる。
坐骨結節を前方に移動させるということはつまり骨盤を後傾させるそれは股関節を伸展する力となる、と言うことである。
この動きをするがために股関節伸展セカンドプル時に膝関節を屈曲してさせる。
股関節伸展のセカンドプルでは、膝関節は一番力が入る角度で固定するので膝から上の体はその分後傾している。
この時の膝関節の角度は実は膝関節伸展でのセカンドプルで力を最大に出力する角度でもあるので、股関節伸展で固定してしまうと膝関節伸展のセカンドプル出力は時系列的に難しいものである。
この形でのセカンドプルの場合、俗に言う「上半身を煽る」や「仰け反る」と言うような形に見えることが多い。
むしろ股関節伸展でのセカンドプルはその形になっていないと力強いセカンドプルは出来ないであろう。
その見た目からも分かるように、このタイプのセカンドプルの場合はキャッチの際にバックステップを踏みやすい。
ただ必ずしもバックステップをするのかと言えばそうではなく、関連する体の各部位やその動きの制御を行うことでバックステップを踏まずにキャッチ出来る。
バックステップを行うのはその制御が上手く出来ていない、あるいは制御を無視した強い筋出力のための動きを行うために起こると推測される。
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「膝関節進展によるセカンドプル」
股関節を屈曲させ固定した状態で、膝関節を伸展させることによりセカンドプルの力を発生させる。
筋肉的にいえば股関節屈曲つまり骨盤を前傾させる縫工筋・大腿直筋を除く筋肉(多数あり)でアイソメトリックな固定を作りつつ、大腿四頭筋を収縮させることによりセカンドプルの力を発生させる。
このセカンドプルの要は大腿四頭筋ではあるが、二関節筋は四頭筋群の中の大腿直筋であろう。(縫工筋も二関節筋であり結構影響を受けやすい)
大腿四頭筋の接着部分が大腿直筋のみ二関節筋で他の三頭は単関節筋であるが、セカンドプルの総合的な力は四頭筋すべての総和でもある。
膝関節伸展でのセカンドプルの前提条件は「骨盤前傾=股関節屈曲」である。
股関節部分の構造的に骨盤は前傾していないと膝関節伸展で大きな力を出せないので、その構造を利用したセカンドプルの力の発生である。
骨盤を前傾させる筋肉は中・小殿筋や大腿筋膜張筋、腸腰筋群などがあり、それらを使いまずは骨盤を常に前傾状態にしておく必要がある。
そして膝関節が30度屈曲付近になったところの筋長で最大限の力を瞬間的に出すのであるがこの時に骨盤が不安定あるいは後傾していると大腿直筋・縫工筋の筋出力が落ちてしまいセカンドプルの力が弱まる。
ちなみに膝関節30度付近屈曲で一番力を発揮するのは内側広筋と言われている。
膝関節伸展だけでは股関節屈曲の固定が不十分であると骨盤にさらに上半身にそしてバーベルに力を伝えるには力が逃げてしまう可能性がある。
また4頭ある内の1頭の筋肉である大腿直筋の筋力を足せなくなるという事でもあり、大腿直筋の筋力を最大出力にするには股関節前傾を安定させて股関節側接着部が支点になるようにすることで最も力を出せる筋長に出来るまたそれを生かせるのである。
大腿四頭筋の4つの筋肉の筋力出力の同期を最大限に取ることで、膝関節伸展のセカンドプルの時の力出力は最大限になる。
骨盤前傾の条件を考えると、膝関節伸展によるセカンドプルで瞬間最大筋力の発揮は膝関節が完全伸展する前に終了するため、その後確かに骨盤をさらに後傾させてサードプルのような形を取れなくもないが、
股関節伸展の場合は大腿四頭筋の筋長が最大筋出力出来るものではなくなっているため、股関節伸展で強い力を出せるとは言い難い。
ちなみに膝関節伸展でのセカンドプルの場合、セカンドプルにおいてのハムストリングスの関与はほぼないと言っても良いと思われる。
次の段階のキャッチの時にハムストリングが使われる。
この形でのセカンドプルの場合、骨盤が前傾した状態で力を発揮するためフロントステップを取りやすい。
また前傾のしすぎでモーメントアーム的に膝に大きな負担をかけてしまうこともある。
そしてセカンドプルの時にあまり状態を煽ったり仰け反ったりしない。
膝関節伸展の場合は軸を常に中心に置いた状態で体を動かす必要があり、またフッドポジションと言われる足の裏に対する重さの置き方に細心の制御が要求される。
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以上が機能解剖学・物理の法則等から見えるセカンドプル力の出力の仕方である。
ヒトの体の構造が決まっている以上、出来ることは限られるがだからと言ってセカンドプルの動作が一つとは限らない。
この話は、機能的にそして構造的に考えると大きく2つのパターンに分かれるという話でもある。
そしてそちらが良い悪いではなく、単にそれぞれの動きはこういうことが起こるという事を話しているだけでもある。
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WLだけ教えるのであればこれら細かいことは把握していなくとも、教える人のタイプと同じタイプを教えられることでWLを習得することが出来る。
しかしQLトレーニングの場合、機能解剖学的にどの筋肉がどういう風に使われているのかを把握していないと、目的に合った適切な指導は行えないという事もこの文章から理解していただけたらと思う。
骨盤前傾での筋出力が必要な人に骨盤後傾要素の動作を教えることはいったいどういう事なのか。
QLは特に参考にしてほしい今回の話であります。
現在の情報や知識ではここまでです。
以上、終わり。
2019.6.18 新規