筋肉の断面積は本当に筋力の指標になるのか

トレーニング理論で有名な筋力を示す式「筋力=筋肉の断面積x速度とか覚醒」を見る限りでは筋肉の太さは筋力を示す一つの条件であると思える。
最もここの考察ではそれが怪しいのではないかという話はいくつかしているが、一般論としてこれは正しいとされている。
今回もこの式についてちょっと考察してみようと思う。

筋力トレーニングをしていると「パンプアップ」という言葉を聞くと思う。
筋肉組織またはその周りに乳酸やら関連する物質や代謝を促す水が集まることにより筋肉が太くなる現象だ。
パンプアップの時はその影響で筋肉がかなり太い状態である。
そこで疑問が起こる。

パンプアップしている筋肉が出力する筋力は大きいのだろうか。

例の式に当てはめれば筋肉の断面積自体は大きくなっているので筋力が大きくなっているに違いない。
しかし現実はというと、経験をしたことがある人ならばわかると思うが、筋力はパンプアップする前よりも小さくなる。
これは速度や覚醒と言った掛け合わせる条件の数値が小さくなっている場合に起こり得る現象である。
だから単純に筋肉の断面積がイコール筋力ではないというシンプルな反証を立てることは出来るのだが、今回はそちらの話ではない。

パンプアップした筋肉は何故速度を出せないのか、果たして脳からの覚醒の指令が弱いからなのかあるいはそれに対する反応が落ちているからなのだろうか。
もしも本当は速度を出せるけど、条件式以外の条件の障害があった場合、もしかしたらそれを取り除けば速度を出せるかも知れない。
もしかしたら脳からの覚醒の指令はきちんと出ていて筋肉もちゃんとそれに反応しているかも知れない。

これを考える時、筋力とはどういうプロセスで発生して、何をもって筋力というのか、その正体をしっかり定義しておかなければならない。

筋肉は収縮する。
筋肉はどこかに接着してつまり支点を作ることにより縮む方向が決まる。
そして作用点にも接着することで作用する側を支点側に、筋肉の収縮をすることによりそれを引き寄せることが出来る。
その時初めてその作用点を引き寄せる「力」という概念が生まれ、それを一般的に「筋力」と呼ぶ。

続けると、筋肉自体は収縮していなければ筋力は発揮していない。
作用点を支点に引き寄せるその動きまたは時間が発生しなければ力も発生しない、つまり筋力は発生しない。

ここで一つ。
筋肉は収縮しない状態でそこに存在しないものなのだろうか。
それはないだろう、物質としてそこに存在している。
という事は筋肉という物質が存在している限り、筋肉の断面積というものは存在する。
しかし筋肉は収縮していなければ筋力は発生していない、つまり数字的には「0」と表されるのだろうか。
断面積はそこに断面積が存在している限りは0よりも大きい。
つまり筋肉が存在している限り

筋肉の断面積>0

という事である。
ここで矛盾が起こる。
筋力は筋収縮が起こって初めて発生するものであると考えらえる。
となると、筋肉のプロセス的に筋収縮を起こしていないつまり筋力を発生させていない断面積を筋力の数値に反映させてはならないのではないか。
また違う面から考えてみる。
筋肉の断面積は筋力を発生させていない状態の筋肉の断面積よりも小さくすることが出来る。
つまり「伸ばす」のである。
筋肉という器官の性質上それは可能であり、一般的に言うところの「ストレッチ」というものだ。
筋肉を伸ばして断面積を小さくすると、力を入れていない状態よりも断面積は小さくなる。
当然筋力は発生していない。
そして伸ばしても筋肉の断面積が0になることはない。
つまり筋肉をストレッチ(伸ばす)をしても筋力の指標となる数値が存在することとなる。

ここまではまだ良い。
それでは今度は筋力を発生させずに筋肉を縮めてみる。
これも実際に可能である。
そうすると断面積は増える。
となるとこれは筋力発生しているまたは筋力が強くなるというのだろうか。
もちろん違うと思う。

筋力=筋肉の断面積×脳の覚醒

この式を使うと上の話は矛盾なく説明することは出来る。
つまり「筋肉の断面積>0」であっても脳の覚醒が0であれば筋力は発生しない。
計算式としても問題なく成立出来る。

しかしこれが

筋力=筋肉の断面積×速度(加速度)

の場合は一部成立しないものがある。
例えば「筋肉の断面積>0」の場合、筋肉が伸縮を全くしていなければ速度は発生しておらず0なので式をしては成立する。
しかし他動的に筋肉を伸縮した場合の速度は0より大きいので、筋肉の断面積も>0を掛け合わせるとその答えは0よりも大きいものになり筋力が発生してしまう。
なので速度を掛け合わせる場合は一部正しくない計算が行われることがある。

良く世間一般では「筋力は筋肉の太さ(断面積)で決まるんだよ」と言う人が多いし一部専門指導をしている人でもそれを言う人がいる。
この場合だと筋力=筋肉の断面積だが、筋力=0の時の筋力の断面積=0にならなければならないが、断面積は0になることはないのでこの話は理論的には間違いであると言っておく。
計算式上でも、筋肉の断面積に掛け合わせる条件があるからこそこの式は成立する、その条件は結構限られていると思った方が良いのかも知れない。

ついで話ではあるがアイソメトリックの時の筋肉の状態は筋力は発生している。
ただ見かけ上は発生していないプロセスと同じに見える。
何故かというと、アイソメトリックの時に速度は発生していない。
止まった状態で筋肉の断面積の大きさを維持するからである。
これは見かけ上は筋肉に力を入れていない時の条件と同じであるが、違うのは「脳からの覚醒」があるかないかではないだろうか。
だから筋肉の断面積に「速度」をかけわせると筋力は0になるが、覚醒をかけ合わせれば0より大きい数字になる。

ここまでの話を細かく見ていくと、筋肉の断面積は必ずしも筋力の完全な指標になる訳ではないということがなんとなくわかると思う。
筋肉は存在する、存在するから筋力が発生する、筋肉が存在しなければ筋力は発生しない。このような関係性はある。
筋肉は存在しているだけでは筋力は発生しない、それに何か条件が加わり、筋肉は筋力を発生させるプロセスを生じるのである。

考え方を変えてみよう。
筋肉は存在しているだけでは筋力は持たないのであろうか。
そもそも存在している時点で何らかの筋力は発生しているのではないか。
答えは「Yes」である。
それは例えば人間は地球上で生活をしている。
地球上で活動をするからには重力の力を受けるのは必至である。
となると、ヒトが地球に存在しているだけで筋肉は力を持っているのではないか。

・・・などと考えると正直キリがない話である。
だからこそ、必要になってくるのは「筋力」とカウントするための条件であり定義である。
その辺りがあいまいだからこそ、筋力の式も理屈でツッコミを入れられるのである。
ただそのツッコミの意味を知ることは重要なことであるとは思われるが。
少なくともこれら式に対する筋力の定義を決めようと思う。例えば

・脳の覚醒により発生する筋肉の収縮の力を筋力Fとする

なんて加えると結構スマートになるのではないか。
筋力という項目に「脳の覚醒」と入れてしまうのである。
そうすると取りあえず式に矛盾は起こらなくなりそうである。
例えば

F = 筋肉の断面積

とすれば世間一般で言われている話は間違いではなくなる。

F = 筋肉の断面積×速度

も変なことは起こらなそうだ・・・

しかしこの式自体に違和感を覚える人はいないだろうか。
そもそも「速度」というものをかけ合わせる時、それは何を求める場合なのだろうか。
例として良く見かける式だが

距離 = 速度×時間

と言うように、速度には時間と距離の概念がある。
例えば50㎞/時は1時間に50㎞進むという意味がある。
これに時間をかけて距離を出すのは、それでは50㎞/時の速度で3時間進んだ時の距離は?というように時間に対しての大きさを示す。距離はその条件に反していない。
だがこれが筋力の式だとどうだろう。

筋力 = 速度×筋肉の断面積

速度というのは時間と距離の概念と含む。
先ほどの式であれば
「距離を移動するのにどれぐらいの時間がかかるのか」
というように言えるので違和感はないがこれが
「筋力を出すのにどれぐらいの断面積が必要か」
一見言っていることはおかしくないのだが、後者の場合「速度という要素はいるの?」と言う風にはならないか。
例えば
「距離を移動するのにどれぐらいの速度が必要か」
はおかしくないが
「筋力を出すのにどれぐらいの速度が必要か」

日本語としても意味としても間違いではないが、違和感を感じないだろうか。
つまり「筋肉の断面積と速度の関係」に共通性がないのである。
前者の場合、速度には時間の要素が入っていてそれに時間をかけ合わせるのでお互い「時間」という関係性がある。
しかし後者の場合速度は距離と時間の要素を含んでいるのに対し、断面積は面積という要素しかないのでなんら関係性はないのではないか、とも思える。
前者の式をもう少し形を変えてみると

距離(km) = 速度(km/h)×時間(h)
km = (km/h)×h
km = (km×h)/h
km = km

と右辺と左辺は同じになる。
それに対し後者は

筋力F(kg) = 速度(km/h)×筋肉の断面積(km×km)
kg = (km/h)×(km×km)
kg = (km×km×km)/h

となり、右辺と左辺の数値が同じにならない。
果たして距離の3乗に時間をかけたものが筋力なの?って思いたくならないだろうか。
取りあえず筋力の単位は皆さんの知っている「kg」にしてみたからそう思うかも知れないけれども、筋力を違う単位で言い表している情報が簡単には見つからなかったので一般論に合わせてみた。

話がどんどんややこしくなっていくがもう少し考えてみる。
元の式「筋力F=筋肉の断面積×速度」の速度とはいったい何を指すのか。
これを考えていくとさらにややこしくなっていくがややこしくしていこう。

本来の速度というのは実は筋肉直接の何かを測定して出てくる速度ではない。
筋肉がものを収縮で引っ張る力ではなく、一般的には肘関節を例に取ったものが多いが蝶番関節に関する骨と筋肉の関係性で話すことが多いがわかりやすく言えばアームカールで錘を動かす速度のことである。
しかし間接的に肘関節の収縮する筋肉の収縮スピードに比例するため(筋肉が収縮することで錘が動くことには違いないので)たまたま錘が動く速度を「速度」として使っているともいえる。
厳密には筋肉の収縮速度のことを示しているのだが。

さてここで「収縮」という言葉で「距離」が思い浮かぶのではないかと思う。
筋肉が収縮することで支点と作用点の関係性から距離が生まれる。
つまり、収縮前の作用点と収縮後の作用点が同じ位置にないのであればそれは作用点が移動したことになり、その移動距離こそが距離である。
そうするとなんとなく速度という概念も見えそうだ。
つまりどれぐらいの時間をかけて作用点はその距離を移動したのか。
時間の概念も生まれてきた。
ちなみに今は作用点で距離としたが、これは筋肉の長さの変化で言い表すことが出来ることは当然わかると思う。
つまりそれぐらいの時間をかけて筋肉はその長さ収縮したのか。
この時の「長さ」はイコール距離と言える。
ここで前に出した筋力の定義を思い出す。

・脳の覚醒により発生する筋肉の収縮の力を筋力Fとする

ここからこの「長さ=距離」は筋力とちゃんとリンクしていることが分かる。
何となく何かが出来上がってきた感じがしなくもない。

ではここからが問題。
筋肉の断面積はどうやって関連付けを証明して行こうか。
先ほどの話で筋肉の「長さ」がどうやら使えそうだ。
そこから、筋肉の長さと断面積を考えてみる。
筋肉の仕組みとして、筋肉が収縮すると筋肉は太くなる、というものがある。
逆に伸張したら筋肉は細くなる。但し筋肉がなくなることはない。
もとい、筋肉の長さと断面積にはそういった関係があるので、では断面積も距離として使えるかどうかが論点になってくるように思う。
またまた少し考えてみたいと思う。
例えば

距離 = 速度×時間

この形式を筋肉の距離(長さ)の概念で一つ式を作ってみると

収縮前後の筋肉の長さの差 = 筋肉が収縮する速度×筋肉が収縮するのにかかった時間

これは式として問題はない。
ではこの式の中にある項目から、そして筋肉の長さと断面積の関係性から「収縮前後の筋肉の長さの差」が筋肉の断面積でも置き換えられるのであれば問題解決である。

ところで「筋肉の断面積」とは何を指すのかと思い出そう。
筋肉を輪切りにした際の断面積のことである。ただそれだけのものである。
どのシーンで輪切りにしたとか、長さのある筋肉のどの部分を輪切りにしたとかそういう定義は一切されていない。
これですでに式の論理は破たんしてしまうような気がするがもう少し考える。
一般的に言う「断面積」に時間や距離というものは一切含まれていないのはお分かりだろうか。
もしも時間や距離を考えるなら「断面積」の一言ではなく「断面積の増減の変化」であろう。
つまり、この式をもっと有効にするには「断面積」自体をもう少し変える必要がある。
筋肉の長さに反比例して増えるのであればそれをまずは定義づけして、さらに「筋肉の断面積」は「断面積の差」と変えてみてはどうだろうか。
そうして式の中の「収縮前後の筋肉の長さの差」を「収縮前後の筋肉の断面積の差」と置き換えてみると

収縮前後の筋肉の断面積の差 = 筋肉が収縮する速度×筋肉が収縮するのにかかった時間

これなら違和感がだいぶ減ったように思われる。
さて、前の方で筋肉の長さは筋力とリンクしているつまり関係しているというのを思い出してみる。
この事から「収縮前後の筋肉の長さの差」というのも筋力になんらかの関係性があることが推測できる。
という事は「収縮前後の筋肉の断面積の差」も筋力に何らかの関係性があるという事は容易に推測できるであろう。
つまり「収縮前後の筋肉の断面積の差」は筋力の発生により起こり得た現象であるとも言えるため、これを筋力の一つの指標としても問題はないのではなかろうか。
しかしこれは「筋肉の断面積」とは別物であるという前提は必要だと思われる。

これでなんとなく筋力の式の裏にある理論やら理屈やらが把握できたようであるが、それでは引き続き考察。
一つ例えばの話。

筋力を発生していない、筋肉の長さa、それに対する筋肉の断面積bという筋肉Yがある。
その筋肉Yに脳からの覚醒の刺激が入った。
その際筋肉の長さaは変化しなかった
その状態での筋肉Yが発している筋力Fはいかほどか。

先ほどの話から、筋肉の断面積の差が筋力の一つの指標になるという仮定の域は抜けないがそう定義した。
しかしこの例は、筋肉の断面積の差が0の為、筋力Fは0である。
しかし実際はそうなのだろうか、現実では筋力が発生しているのは明らかである。
これはアイソメトリックの筋力出力の例である。

もう一つ例えばの話。

筋力を発生していない、筋肉の長さa、それに対する筋肉の断面積bという筋肉Yがある。
その筋肉Yに脳からの覚醒の刺激が入った。
その際筋肉の長さaは脳からの覚醒の刺激が入らなかった時よりも長くなった
その状態での筋肉Yが発している筋力Fはいかほどか。

筋肉の断面積の差がマイナスになる場合、筋力もマイナスの方向へ進むがそれをどう扱うのか。
それ以前にこの状態でも筋力が発生しているのは現実問題として明らかである。
これは伸張性収縮の例である。

ここまで考えてみて思う。

「筋肉の断面積(または筋肉の長さもだけど)って筋力の指標には使えないのでは?」

どうだろうか。
そう考えると一般的に言われている

筋力 = 筋肉の断面積×速度

には無理があるように思えなくもない。
世間で言われている「筋肉の断面積=筋力」なんて言えないのではないか。
つまるところ「筋肉」に対してあまりにも定義がないというか曖昧なのではないか。
また筋力というものに対しても曖昧すぎるのではないかとも思う。

しかしこれがトレーニング理論の教科書に堂々と書かれているのである。
何をどうしたら教科書に堂々と書けるのかはわからないが、その式に至るまでの過程が分からないため不明なままである。

更に筋力発生の他の面での仕組みを考えると長くなるのでやめておくが、断面積が重要なのではないという事なのではないかというのが考察してみて思ったところである。
あくまで個人的な感想ではあるが。

以上、終わり

2020.01.26 新規

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