今回の話は私のウエイトリフティング指導での経験からの一つの手法としての話となる。
あくまでも参考程度に捉えてもらえればと思う。
ウエイトリフティングにおける体幹部の使い方は、若干の競技特性を持っている。
体幹部の作り方と言えば、脊柱は正常なS字カーブを作りつつ、そこから少しだけ胸椎の弯曲を弱くして胸郭を上げるというものである。
この姿勢作りにおいて、時と場合によっては「
競技ベンチプレス」が役に立つということを記述できたらと思う。
ウエイトリフティング導入時に押さえておきたいところとしては、やはり姿勢:体幹の使い方を学ぶところである。
これは競技の基礎でもあり、また競技や練習中怪我の予防にもつながる。
そのためクリーンやスナッチのフォームを覚える際に、体幹の使い方はいち早く覚えておきたい。
しかし今までウエイトリフティングをしてこなかった人がその使い方を出来るようになるには時間がかかり、また姿勢を作るためにどのように力を入れたらいいのか、どう意識を持てばいいのかというのは非常に分かり難いと悩む人が多いのが現場で感じたところだ。
現代においてそもそもの脊柱の正常なS字カーブを作ること自体が健康のテーマとなっている中でなかなか猫背を直せない人が多いというのもそれを示しているのであろう。
また実際に愛好家ウエイトリフターなどでも体幹を使えていない人も多いのが実際だ(さすがにアスリートレベルになるとその点はクリアしているが)
逆に言えばウエイトリフティング自体は体幹部が使えなくてもある程度は出来てしまう競技であるということの証明にもなるが、体幹部が使えない人はやはり競技レベル自体高くないし、脊柱周りのトラブルを抱える人も少なくない。
いろいろを考えていくと、やはりウエイトリフティングにおける体幹の使い方は重要になってくると言えるのではないだろうか。
さて、通常のウエイトリフティングのやり方で比較的多いのが、フォーム練習中に指摘されながら体幹部の使い方を感覚として覚えこませていくやり方、補助種目としてデッドリフトやローイング系の筋トレで学んでいくやり方だ。
実際にこれらの内容で習得もできるが、中にはこれらの中で習得できない人がいるのも実際だ。
何故習得できないのかに関しては、いくつかの原因があり、それらに原因解決のアプローチのひとつとして「
競技ベンチプレス」が利用できるというのが今回のテーマである。
ウエイトリフティングでのバイオメカニクスを考えると、
競技ベンチプレスは比較的共通する部分は少ないと思われる。
しかし「何故習得できないのかの原因」を考えた時、
競技ベンチプレスはその原因に違う角度からアプローチ出来るものだということをこれから説明していく。
まず「何故習得できないのかの原因」を知っておかなければならないが、その原因の中のひとつである「肩甲骨を動かせないから」というところを見ていく。
更に細かく「肩甲骨を動かせない」原因を考えていくと
- 筋肉への神経的な伝達に問題がある
- 神経的伝達は届いているが筋肉に問題がある
- 1も2も問題ない場合、肩甲骨が物理的または機能解剖学的に動かすのが難しい状態である
- そもそも肩甲骨が動くという感覚が掴めない、イメージが掴めない
と言ったところであろうか。
1に関しては4を理論的にした理由であるが、イメージや感覚が掴めないので筋肉への神経的な伝達自体やりようがないというところであろうか。
人には脳と体を動かすための接続リンクの方法として「自身の中で描く感覚・イメージ」を基にする人もいる。
どういうイメージで体を動かすのか、どういう感覚を持つのかは実際には当人にしかわからないが、どうしてもその感覚やイメージがつかめないとできないという人もそれなりにはいるということは現場で体験したことの一つである。
こういう人は一見習得までに時間がかかるが、一度感覚やイメージを掴んでしまえば今までできなかったことが嘘のようにできるようになるという性質もある。
1と4を分けた理由としては、感覚やイメージはあるけど1に該当する場合もあるからである。
2に関しては3と関係しているところであり、言い方を変えれば「筋肉が解剖学的に動くことに障害がある」と言うことでもある。
もっと専門的な用語で言うのであればどちらも「筋収縮できない」ということである。
一般的な理由としては「筋収縮できないほどに筋肉が固まっている:例えば肩こりで」と言うような原因もあるだろう。
3に関しては肩甲骨が動くためには動くための環境を整えてあげることが大事だということである。
例えば脊柱が正常なS字カーブを描けていない場合や胸郭が下がっている状態だと、肩甲骨と肋骨部が密着してしまい摩擦などで動かし難かったり(物理的な要因)、或いは筋肉が伸ばし続けられているというテンションが物理的に常にかけられている状態(引っ張られている状態)の為に、それに拮抗する収縮する力を出すのが難しいなどの理由で肩甲骨が動かし難くなっているというようなことがあるため、肩甲骨を動かしたくても動かせない状態にあるということである。
筋肉が収縮するためにも筋肉がどういう状態なのかというのも大事な要因であり、必要以上に伸ばされている状態よりも伸びていない状態から収縮させる方が容易である。
その筋肉の状態を作るに辺り、筋肉に無理な負担をかけてしまう要因が物理的に発生している状態が原因であることもある。
4に関しては、ウエイトリフティング競技よりもクイックリフトをやりたいという人に多い原因で、例えば運動をしたことがなく日常生活でも肩甲骨を意識して動かすことなく過ごしてきた人は、そもそも肩甲骨が動くものだということも考えていないし、位置も分からないし見えない部分をどうやって動かすのか分からない、なんてことは当たり前のようにある。
そのような人に「肩甲骨を動かして」を言ってもそもそも通じないのである。
また、競技特性上、ウエイトリフティング的な肩甲骨の使い方をしない競技をやっている人が行う場合、ウエイトリフティングで必要とされている肩甲骨の動かし方というのが全くイメージできないというのもよくある話である。
これらを踏まえた上で(まとめて「肩甲骨が動かせない」とまとめるが)、肩甲骨が動かせないという人にその原因の解決にアプローチする手法として「
競技ベンチプレス」の習得方法の一部を取り入れるのである。
「肩甲骨が動かせない」と言うのであれば「肩甲骨を動かせる環境」を作る必要がある、その環境を作るのに
競技ベンチプレスのブリッジを作り上げるまでの過程を利用するのである。
ベンチプレスはウエイトリフティングと比べると、重力の向きが90度違う。
これはどういうことかと言うと「肩甲骨を動かすための環境づくりに重力が使える」と言うことである。
そこに更に「とある道具」を使うことにより、肩甲骨に付着している筋肉をそれほど使わずに肩甲骨を動かすことができ、且つ、肩甲骨をウエイトリフティング的に動かした場合の感覚も掴みやすくなる。
注意したいのが、筋トレとしてのベンチプレスではなく「競技」としてのベンチプレスの手法であるというところである。
言ってしまえば、
競技ベンチプレスのあの「ブリッジ」が胸郭を上げた時の身体とほぼ同じ形状なのである(過度なのは違うので注意)。
それを作るためにはその「過程」と言うものがあり、その過程は先ほどの原因で挙げた3をある程度解決できる可能性があり、4で掴みたいものが掴みやすいという可能性を持っているということである。
と言うことで、
競技ベンチプレスのフィジカル習得の過程を利用して、ウエイトリフティングの体幹部の使い方に生かせるのではないかというそういう話である。
ちなみに、ここにその
競技ベンチプレスのフィジカルづくりの過程を書かないのは、競技であるため「健康を損なう恐れ」があるためである。
もしもウエイトリフティングの姿勢習得に悩んでいる人がこの記事を見た場合は、きちんと指導できるパーソナルトレーニングを受けることを推奨する。
以上、何らかの参考にということで。。
尚、これはあくまでも経験則に基づく話なので、情報の正誤に関しての保証はしない。
以上。
2024.3.12 新規