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ウエイトリフティングの安全性 2025.7.22記


ここずっと、ウエイトリフティングを行う上での安全性について、いろいろな意見が見られるようになりました。

それは良いことです……と言いたいところなのですが、本当に良いことなのかと、今になって思い始めています。

一番の懸念は「ウエイトリフティングは安全なスポーツである」という意見がまかり通ってしまうのではないか、というところです。

結論:どうやっても危険なスポーツです

このエッセイの結論から言えば、「ウエイトリフティングは、どんなことをしたって危険なスポーツである」ということになります。

そもそも、危険でなければ安全性を考える必要はありません。

危険があるからこそ、安全に行えるよう工夫する必要がある。最初にあるのは「危険」のほうです。

重たいバーベルを頭上に挙上する競技なのです。

そんなもの、危ないに決まっているじゃないですか。

——という感覚を持たなければなりません。

どんな環境で行うにしろ、危険なものは危険。それが本来、生き物として持っていなければならない知覚です。

危険を知らない安全は、安全ではない

その感覚を皆が認識した上で安全対策を行うのであれば、その安全は有効に働くでしょう。

しかし、その感覚がない状態、危険を認識できない状態での安全対策は、かえって最も危険な状態を生み出すのではないかと思います。

安全とは、危険という裏側があるからこそ成立する定義です。ですから、危険を知らない安全は安全ではありません。

言葉で説明するのはなかなか難しいのですが、安全というものは危険とセットなのです。

これは逆もまた然りなのかも知れません。安全が存在しているからこそ危険であり、安全が存在しない危険は、もはや日常でしかないのですから。

「これがあれば安全」は成立しない

さて、いろいろな安全がありますね。

シューズを履けば安全。ニースリーブやリストラップをしていれば安全。バーベルを落とせれば安全……

確かに、いずれも安全対策にはなっています。しかし、それらがあったからといって、そこに潜む脅威が消える訳ではありません。

シューズ 足元に固いものが落ちていれば、確かに足の怪我を防げます。しかし、履いていてもそれを貫通する釘に気づかなければ、シューズの安全性はゼロです。

ニースリーブ 着けていれば安全かと言えば、それが大会の定める規格外のもので使用できなかった場合、大会では守りたい膝を守れません。

リストラップ 手首は守れるかも知れませんが、そもそもキャッチのフォームがきちんとできていなければ、キャッチに失敗したり指を怪我したりすることもあります。

落とせる環境 バーベルを落とせれば安全かと言えば、失敗したときの逃げ方を知らなければ意味がありません。前方に落とせれば良いですが、後方に落としてしまえば体を痛める可能性があります。

このように、どんなことをしても、完全に安全な状態を作ることはできないのです。

では、どうすれば良いのか

実はいたってシンプルです。

自分の身体能力を上げて、危険に対してきちんと対応できるよう訓練しておくことです。

学校での避難訓練のようなものだと思ってください。

いくら学校設備の安全性を高めたところで、大火事になってしまえばそれらの設備は意味をなしません。

設備の防火性は、最終的には人間が避難するための時間を稼ぐものでしかないのです。

その稼いだ時間の間に、人間が建物の外へ逃げる。これが必ずセットで行われます。

火事が起こったらパニックにならず、速やかに外に出て安全を確保する。それは人間が行わなければならないことであり、そのためにシミュレーションとしての訓練を行う訳です。

防波堤もダムも、時間を稼ぐもの

話は逸れますが、防波堤やダムも、あれは逃げる時間を稼ぐものに過ぎません。あれがあれば絶対に安全、ということはないのです。

防波堤は、決壊するまでに少し時間がかかるからこそ、その間にできるだけ遠くへ逃げられるようにするためのものです。もちろん、小さい波であれば防波堤だけで防げたりはしますけどね。

ダムもそうです。水が溜まるまでの時間が、逃げる時間を稼いでくれます。ダムは水がいっぱいになれば放出します。そうしないと、逆に大量の水が流れ出て危険だからです。

ダムは、人間が水量を管理することで安全性を生み出しているに過ぎません。

閑話休題。

危険も含めてウエイトリフティング

今の時代、私が懸念しているのはこういうことです。

「安全に行うことが大事」というところに重点を置きすぎて、本来の「危険」を忘れてしまっている。というより、そもそも危険などというものは存在せず、それが絶対に起こらないようにするためのものが「安全」だと思っている。その考えがどんどん大きくなっているのではないか。

どんなことをしても、ウエイトリフティングが持つ「危険」をなくすことはできません。

もしウエイトリフティングから危険をなくしたいのであれば、まずはバーベルを扱うことをやめるところからでしょう。

しかしそれは、ウエイトリフティングのアイデンティティの喪失です。ウエイトリフティングでなくなるのは当然です。

言ってしまえば、危険も含めてウエイトリフティングなのです。

それを決して忘れてはなりません。

だから私は「落とせないジム」で指導します

最近では、バーベルを落とせるジムが安全だという考え方が、ジム選びの基準の一つになっているように思います。

しかし、そういう考え方をしているジムは、本来であれば「安全」ではないのです。

教える立場として、ウエイトリフティングは危ないものだということをしっかり伝えなければなりません。その上で、できるだけ身に危険が及ばないようにするにはどうしたら良いのか、人間にできることを教えるべきだと思っています。

ですので私は、あえて「落とせないジム」で指導をします。

落とせないということは、自分の身は自分で守らなければならないということです。

その「自分の身は自分で守る」ということを、指導の中でしっかり教えます。具体的には「落とさないで降ろす方法と、そのための訓練」です。

落とせるジムだと、どうしても油断します。そしてこの部分は絶対に鍛えられません。

落とせないという絶対的な環境だからこそ、降ろす手段を身につけなければならないのです。

とはいえ、万が一の場合は1回だけ落としても良いことにしています。ただしその場合は、重量などの設定を変えます。そもそも最初から、降ろせない重量でスタートすることはありませんが。

初心者の方こそ、身を守るための手段を指導してくれるジムが良いと私は思っています。

一方で、初心者だからこそ最初は怪我なく安全に行いたい、という気持ちも分かります。

そのどちらも本当のことなので、今の時代はそういう意味で難しいですね。ただ少なくとも、危険を危険として知った上で選んでほしいとは思っています。

2025.7.22 著


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